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不条理劇の幕を下ろせ 5月24日 [産経抄]

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【産経抄】不条理劇の幕を下ろせ 5月24日

 77年前の今日、旧ソ連レニングラードに生まれた詩人の故ヨシフ・ブロツキー氏は、1987年にノーベル文学賞を受賞している。23歳の時、定職に就かない「徒食者」として告発された。「自分は詩人だ」との主張は、裁判官に一笑に付され、強制労働5年の判決が言い渡された。裁判は、無実の詩人が断罪された「不条理劇」として知られるようになる。

 ▼中国の山東省と海南省で、日本人6人が今年3月、拘束された。現地では今、日本式の温泉施設がブームを呼んでいる。6人は当局から許可を得て、地元の温泉開発会社とともに、地質調査に携わっていた。スパイ行為が疑われているとすれば、「不条理」としかいいようがない。

 ▼7年前には、日本の建設会社の社員4人が、軍事管理区域に侵入したとして、一時拘束されている。尖閣諸島付近で起きた漁船衝突事件で、船長を拘束した日本政府に対する明らかな報復だった。

 ▼2014年から施行された「反スパイ法」は、スパイ活動の定義があいまい、つまり当局が自由に解釈できる。15、16年には日本人男女5人が、スパイ容疑で拘束された。うち4人の公判はすでに始まっているが、非公開である。6人についても、中国政府は拘束の事実を認めただけで、容疑など詳細を一切明らかにしていない。中国駐在の日本人の間で、当局への不信感が募っているはずだ。

 ▼ロシア文学者の沼野充義(みつよし)氏によると、ブロツキー氏の裁判が有名になったのは、傍聴席でメモを取り続けた勇気ある女性のおかげだった。判決は国内外からの批判を浴び、ブロツキー氏は翌年に釈放されて、その後米国に亡命を果たす。

 ▼中国の「不条理劇」の幕を下ろし、拘束された日本人を救い出す手立てはないものか。


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】アニサキスはひどいヤツだ 5月22日 [産経抄]

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【産経抄】アニサキスはひどいヤツだ 5月22日

アニサキスの幼虫の写真(厚労省HPから)

 

 「カイチュウ博士」として知られる東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎さんは、かつて自分の腸で、サナダムシを飼っていた。藤田さんは長年、寄生虫によるアレルギー抑制の研究に取り組んできた。その効力を自分の体で、確かめようとしたのだ。ダイエットの効果まであったそうだ

 ▼もちろん、人に害を及ぼす寄生虫も少なくない。最近よく耳にするアニサキスも、その一つである。長さ2~3センチの白い糸のような幼虫は魚の内臓に潜み、時間がたつと身の方にも移動する。それを刺し身など生で食べると、幼虫の刺激を受けた胃や腸が炎症を起こし、激しい痛みや吐き気を引き起こすことがある。

 ▼最近、被害報告が急増している。お笑いタレントも次々にネットで感染体験を発表して話題となった。そもそも、その存在が広く知られるようになったのは、故森繁久弥さんのおかげである。

 ▼昭和62年に名古屋で公演中の森繁さんは、腹部の激痛を訴えて緊急手術を受けた。サバの押しずしを食べた森繁さんの腸にアニサキスが見つかった。「南方のきれいな花みたいな名前だけど、ひどいやつだ」。こんな名言も残している。

 ▼酢で締めたり、塩漬けにしても予防効果はない。十分に加熱するか冷凍によって、幼虫はようやく死滅する。欧州連合(EU)では加盟国に対して、寄生虫対策として生食の魚の冷凍を義務づけている。日本でも一部の専門家が、義務づけの主張を始めた。

 ▼もっとも流通事情の改善によって、産地から直送されてくる活(い)きのいい魚の種類が増えている。生魚の美味を知りすぎた日本人が、果たして規制を受け入れるだろうか。小欄は、百パーセントの安全を求めるより「正しく恐れて」、これからも刺し身を楽しみたい。


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青葉を抜ける風を「緑風」と、若葉の香りを運ぶ風を「薫風」と呼ぶ [産経抄]

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【産経抄】5月21日

 ある娘が不思議な夢を見た。高い山に登り「月日を左右のたもとにおさめ、たち花の三つなりけるえだをかざす…」。軍記物『曽我物語』の一節にある。太陽と月をたもとに入れ、橘(たちばな)の実が3つなった枝を頭上にかざす。さて、何の前触れなのか。

 ▼「悪い夢だわ」と話を聞かされた姉は眉根を寄せて、その夢を買い取った。妹思いの美談にはしかし、裏がある。はるか昔、橘の実は「非時香菓(こときじくのかくののみ)」と呼ばれて重宝された。「時に左右されず香り輝く実」だ、と。吉夢と知りつつ芝居を打つ。食えない人ではないか。

 ▼後に、源頼朝の正室となった北条政子である開業5周年の東京スカイツリーで、「橘色」のライトアップが新たに始まり、話題の的になっている。「縁起のよい色」との記事に接しゆかりの物語を思い出した。気ぜわしい日々にあって一服できるニュースだろう。

 ▼黄金色の実や清楚(せいそ)な白の花弁は古来、歌に詠まれてきた。『古今集』に〈さつき待つ花橘の香をかげばむかしの人の袖の香ぞする〉とある。色も香りも愛されてきた5月の花である。聞き慣れぬ「橘色」との出合いがわが国の歩みに思いを馳(は)せる機会になればいい。

 ▼野も山も街の並木も日々、色を濃くしてゆく。この頃は、色や香りを時候のあいさつに託すことも多い青葉を抜ける風を「緑風」と、若葉の香りを運ぶ風を「薫風」と呼ぶ。「風青し」と書けばさわやかな風の吹く心地がする。五感で確かめたいこの季節である。

 ▼折しも巷間(こうかん)では「ドリーム」と名のついた宝くじを売っている。政子が手に入れた夢のおこぼれにあずかれないものか。よこしまな思いを胸で温めながら、縁起物の電飾に彩られたスカイツリーを夜空に拝んでみる。「夢がない」と言うなかれ


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「忖度されたら責任を取れ」という民進党の理屈は理解できない 5月20日 [産経抄]

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【産経抄】「忖度されたら責任を取れ」という民進党の理屈は理解できない 5月20日

 10年以上前、小泉純一郎内閣の頃に官邸関係者から聞いた話である小泉氏が昼寝中の執務室に、省庁幹部が「報告がある」と1人で駆け込み、すぐに出てきて「首相の承認をもらった」と言い帰っていく場面が度々あったという。権力者という虎の威を借りて、都合のいい政策を推進するわけだ。

 ▼古今東西、権力者や権威者の名前を自身の権勢拡大や、正当化に利用する者は後を絶たない。首相やその夫人の名前を使って寄付金を募った学校法人もあれば、憲法学者の主張を錦の御旗として政権攻撃を図る新聞もある。

 ▼「官僚による究極の忖度(そんたく)があったと疑わざるを得ない。内閣総辞職に値する」。民進党の蓮舫代表は18日、学校法人「加計(かけ)学園」の大学獣医学部新設をめぐり、内閣府が文部科学省に「総理の意向」などを伝えたとする記録文書についてこう強調した。

 ▼文科省を説得して規制を突破したかった内閣府による名前利用なのか、文科省による忖度なのか、そもそも「怪文書」(菅義偉官房長官)なのかは判然としない。仮に蓮舫氏の指摘通り忖度だったとして、忖度されたら責任を取れという理屈は理解できない。

 ▼事の発端は、朝日新聞の17日付朝刊1面トップ記事「新学部『総理の意向』」である。「民主主義国家の当たり前の原則が掘り崩されているのではないか」。同紙は18日付社説ではこう大仰に訴えていた。

 ▼「気味が悪いの一言に尽きる。安倍政権にダメージを与えるためには、何の犯罪性もないことを様々(さまざま)な手段を駆使して『世の中が許せないこと』に仕立て上げる」。漫画家の須賀原洋行氏は、ツイッターでこうつぶやいた。そういえば朝日はかつて、北朝鮮に忖度して拉致被害者を「行方不明者」と呼んでいた

 


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花田さんの審判を仰ぎたい 5月19日 [産経抄]

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【産経抄】花田さんの審判を仰ぎたい 5月19日

 ライバル会社が使っている印刷会社と交渉して、あらゆる印刷物を余分に作らせ、すべて買い取る。中に含まれている重要書類を入手するためだ。ビルの一室から、向かいのビルで行われている重役会議の様子を撮影する。役員の口の動きを読唇術の専門家に見せれば、会話の内容がわかる。

 ▼梶山季之(としゆき)は、小説『黒の試走車』で、新車開発をめぐるスパイ合戦を描いた。刊行から半世紀たって、企業間の情報戦はさらに熾烈(しれつ)を極めているはずである。もちろん自動車業界に限らない。

 ▼昨日発売された「週刊新潮」は、トップ記事「『文春砲』汚れた銃弾」のなかで、ライバル誌「週刊文春」を激しく批判している。週刊新潮の発売前の中づり広告を盗み見てきた、というのだ。

 ▼記事は、文芸春秋の営業担当者が出版取次会社を通じて中づりを入手し、コンビニ店でコピーする姿を追っている。週刊新潮によれば、文春編集部の「産業スパイ」によって、これまで何度もスクープを潰されてきた。特ダネがわかれば、校了まで追加取材が可能というわけだ。

 ▼梶山は作家デビューする前は、「トップ屋」と呼ばれる週刊誌の記者だった。昭和34年の週刊文春創刊にも関わり、先行していた週刊新潮と張り合って、数々のスクープ記事をものにしたものだ。古巣に持ち上がった思わぬスキャンダルに、泉下の梶山も目を丸くしているかもしれない。

 ▼ただ文春側は、不正疑惑を全面的に否定している果たして、どちらの主張に理があるのか。ぜひとも月刊誌「Hanada」編集長、花田紀凱(かずよし)さんの審判を仰ぎたい。元週刊文春の編集長にして、現在は小紙で週刊誌批評を連載している。今週末の「週刊誌ウォッチング」が楽しみである。

 


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本物の王子さま 5月18日 [産経抄]

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【産経抄】本物の王子さま 5月18日

 「“星の王子さま”落下」。古い新聞で、こんな見出しの記事を見つけた。テレビのお笑い番組の収録中、あやまってプールに落ちてケガをしたのは、落語家の五代目三遊亭円楽さんである。

 ▼あるとき電車に乗っていたら、女学生が本の取り合いっこをしている。円楽さんは、サンテグジュペリの『星の王子さま』がブームになっているのを知った。スタートしたばかりの番組「笑点」でキャッチフレーズにすると、大当たりする。

 ▼秋篠宮ご夫妻の長女、眞子さまのご婚約が、間近いことがわかった。お相手は国際基督教大学(ICU)時代の同級生、年も25歳と同じ小室圭さんである。こちらは、自称の「王子さま」ではない。実際に、神奈川県藤沢市の観光をPRする「海の王子」に選ばれている。

 ▼小室さんはきのう、勤務先でメディアの取材に応じた。さわやかな笑顔と落ち着いた物腰は、王子のイメージにぴったりである。英国留学された眞子さまと、英語の堪能な小室さんの間には、共通の話題も多いのだろう。お二人は、横浜市のみなとみらい地区や御用邸のある葉山などで、デートを重ねられてきた。

 ▼〈「ウエディングドレスのような白」と言う彼女はきっと恋をしている〉。先日発表された、「与謝野晶子短歌文学賞」と「山川登美子記念短歌大会」の入賞作品の一つである。眞子さまは、学業と並行して公務にも励まれてきた。そのちょっとしたしぐさや言葉から、恋人の存在に気づいた友人もいたかもしれない。

 ▼テニスコートの恋から60年。天皇、皇后両陛下もさぞお喜びのことだろう。円楽さんは、夫婦の情愛を描いた人情噺(ばなし)『芝浜』を得意としていた。お二人の末永い幸せを、祈らずにはいられない。

 


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ゆうべのカレーにご用心 5月17日 [産経抄]

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【産経抄】ゆうべのカレーにご用心 5月17日

 昭和49年に放映されたホームドラマ『寺内貫太郎一家』は、毎回のように家族そろって朝食をとるシーンで始まった。「鰺(あじ)の干物に大根おろし、水戸納豆…」。脚本を担当した向田邦子さんは、献立の内容まで細かく指示していた。

 ▼あるとき献立の最後に「ゆうべのカレーの残り」を見つけると、出演者全員が盛り上がった。「あれ、どういうわけか、一晩たつとうまいんだよな」。演出家の久世光彦さんのアイデアで献立を字幕で流すと、視聴者からも大きな反響があった。

 ▼その一晩たったカレーを原因とする食中毒が、各地で相次いでいる。今年3月、都内の私立幼稚園では、前日に調理したカレーを食べた園児ら76人が、下痢や嘔吐(おうと)などの症状を訴えた。患者の便から検出されたウエルシュ菌は熱に強く、常温で保存すると急激に増える場合がある。専門家によれば、残ったカレーは小分けしてすぐに冷蔵庫に入れた方がいいらしい。

 ▼日本を含めた世界各地で今、ウエルシュ菌より恐ろしいコンピューターウイルスが猛威を振るっている。サイバー攻撃によって、パソコンが「ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)」に感染すると、データが暗号化されて読めなくなる。

 ▼復旧のために金銭を要求する、悪質な手口である。セキュリティーが脆弱(ぜいじゃく)な、古いタイプの基本ソフトが狙われた。身代金を支払っても、データが復旧する保証はない。

 ▼『寺内貫太郎一家』の時代の日本人は、「ランサムウエア」はもちろん、インターネットとも無縁である。ただウエルシュ菌は、そこかしこに存在していた。「ゆうべのカレーの残り」が、問題を起こした話を聞かないのは、なぜだろう。食中毒を防ぐ知恵があったのか、お腹(なか)が丈夫だったのか。

 


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一帯一路は錬金術か 5月16日 [産経抄]

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【産経抄】一帯一路は錬金術か 5月16日

 「最高の錬金術師」。13世紀の中国・元を訪れたマルコ・ポーロは、『東方見聞録』のなかで、初代皇帝フビライ・ハンをそう呼んでいる。欧州には存在しない紙幣が、中国ではすでに流通していた。

 ▼ただの紙切れが、あらゆる品物と交換できる。マルコは不思議で仕方なかったようだ。紙幣で金銀財宝をかき集める皇帝を、人工的に金を作り出す錬金術師になぞらえた。

 ▼中国が主導する経済圏構想「一帯一路」に関する初の国際会議がきのう閉幕した。「一帯」は、中国から中央アジアを通過して欧州へと続く「シルクロード経済ベルト」、「一路」は、南シナ海からインド洋をへて欧州に向かう「21世紀の海上シルクロード」を指す。

 ▼陸路で中国をめざし、海路でイタリアに戻ったマルコの行程とほぼ重なっている。提唱者である習近平国家主席は、沿線諸国に、総額約8600億元(約14兆1千億円)の融資・援助を行う方針を示した。インフラ投資を熱望する国の指導者の目には、習氏の姿は「最高の錬金術師」と映っていたかもしれない。

 ▼ただ、中国が今年もっとも重要なイベントとして位置づけてきた今回の会議は、初日に弾道ミサイルを発射した北朝鮮によって、けちがつけられた。沿線諸国への経済的支援を通じて、政治的な影響力を強めようとしているのではないか。そんな疑念を持つ国も少なくない。何より素人から見ても、巨額の融資が順調に回収できるとは、とても思えない。日本は協力に慎重な姿勢を続けるのが、正解である

 ▼マルコはフビライを「有史以来最高の君主」と持ち上げたが、その錬金術は色あせていく。財政の悪化と各地で相次ぐ反乱により、栄華を誇った元も、歴史の舞台から去っていった。


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慰安婦問題 デタラメの「吉田証言」の利用をやめない反日活動家5月15日 [産経抄]

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【産経抄】慰安婦問題 デタラメの「吉田証言」の利用をやめない反日活動家5月15日

「慰霊碑」と書き換えられた新しい碑(『父の謝罪碑を撤去します』から)

 

 宇宙の始まりにあったとされる大爆発は、「ビッグバン」と呼ばれる。現代史家の秦郁彦さんによれば、慰安婦問題のビッグバンが起こったのは、宮沢喜一首相が韓国を訪問した平成4年1月だった。

 ▼朝日新聞が「朝鮮人女性を強制連行した」などと事実と異なる記事を掲載したのは、その直前である。同時に「謝罪と補償」を求めるキャンペーンを展開した。案の定首相は、ソウルでデモ隊に囲まれ、何度も謝罪を強いられる。

 ▼国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会が、慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意の見直しを韓国政府に勧告した委員会はこれまでも、慰安婦を「性奴隷」と表現するなど、左派系市民団体の主張そのままの見解を示してきた。今回の勧告は、合意の再交渉を主張してきた文在寅氏が、韓国の大統領に就任した直後に出ている。朝日のキャンペーン同様に、タイミングが良すぎると、思わないでもない

 ▼周知の通り、「強制連行」の根拠になったのは、故吉田清治さんの著作や証言である。それがデタラメであったことは、秦さんの現地調査などで明らかになって久しい。朝日も吉田さんに関する記事については、すでに取り消している。

 ▼にもかかわらず、反日活動家は「吉田証言」の利用をやめない。国際社会で慰安婦問題は、ビッグバン後の宇宙のように膨張を続けている。その事態を誰よりも憂慮しているのが、吉田さんの長男だった。

 ▼吉田さんは、韓国内に「謝罪碑」を建立し、その前で土下座までしていた。長男が今年3月、関係者を通じて、謝罪碑の碑文を書き換え、慰霊碑としていた事実がわかった。「これ以上、耐えられない」と苦しい胸の内も語っていた。英断に敬意を表したい。

 


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お金であがなえない何かを、親は待っている。 [産経抄]

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【産経抄】5月14日

 川沿いの土手を駅へ急いでいると、横合いから小さな男の子の声がした。「お母さん、風が黄色だよ」。「ほんとだね、黄色だね」と母親の声もはずんでいる。見れば一面の緑に点々と、黄色い野花が咲いていた。

 ▼先日、通勤途中で目にした一こまである。なるほど。風が渡る度、花がみな同じ方角に相づちを打っている。風に色があることを教えたのは母親だろう。「黄色だよ」は男の子の中に育った感性の花か。母親の顔は、一生分の宝を手にしたような笑みで崩れていた。

 ▼子は3歳までに親孝行を済ませるとか。だからというわけではないが、「母の日」に何かを贈る側と贈られる側では意識のすれ違いがある。日本生命の調査では、贈り物予算は「3千円~5千円」が主流で、贈られる側が期待する平均額を1千円以上も上回った。

 ▼このすれ違いは笑い話で済むとして、親の本音がにじむ項目もある。贈り物に「手紙・メール・絵」と答えたのは、贈る側の0・9%に対して贈られる側は14・2%だった。お金であがなえない何かを、親は待っている。日頃の無沙汰に冷や汗をかく人も多かろう。

 ▼明治生まれの哲学者、西田幾多郎が詠んでいる。〈まさきくと門出送りし我母の老いたる姿今に忘れず〉。里帰りの度に足腰の弱る母だったが、息子が都心に戻る日は門前に立ち、いつまでも見送ってくれたという。無条件に与えられる母親の愛情にはかなわない。

 ▼〈まさきく〉は漢字で「真幸(まさき)く(=無事で)」と書く。花束もよし。手紙やメールもよし。電話口で「元気か」「ありがとう」の言葉に託し、息災を伝えるのも上質の贈り物だろう。「風が黄色だよ」の無垢(むく)な感性を遠い昔に置いてきた人も、誰かの子であることに変わりはない。

 


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条約より国民情緒 文在寅大統領は弁護士出身だが、順法精神とは無縁らしい 5月13日 [産経抄]

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【産経抄】条約より国民情緒 文在寅大統領は弁護士出身だが、順法精神とは無縁らしい 5月13日

 またぞろ、国民感情が実定法や国際条約に優越する「国民情緒法」の発動か韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は11日の安倍晋三首相との電話会談で、慰安婦問題をめぐる日韓合意についてこう言い放った。「国民の大多数が、心情的に合意を受け入れられないのが現実だ」。

 ▼文氏はもともと日韓合意の再交渉を主張しており、予想された反応ではある。とはいえ、自国民の感情を、どうして他国が無条件に尊重すると思い込めるのか。それが国と国との公の約束より重いという発想は、どこから来るのか。

 ▼中国・戦国時代の韓非子は、指導者が最も国を危うくする政治手法についてこう記した。「第一は、規則があるのにその中で勝手な裁量をすること。第二は、法規をはみ出してその外で勝手な裁断を下すこと」。韓国の国際的信用は低下する一方となろう。

 ▼韓国・釜山の日本総領事館前に設置された慰安婦像は、公館の威厳を定めるウィーン条約違反である。ところが文氏は今年1月にそこを訪れ、「像が寂しがらないように、ともに関心を持っていこう」と呼びかけた。弁護士出身だが、順法精神とは無縁らしい。

 ▼「政権をとれば親日派を清算する」。文氏の著書にある言葉で思い浮かぶのは、文氏が最側近を務めた盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の時代に成立したいわゆる親日反民族法である。日本統治時代に朝鮮総督府に協力したり、警官だったりした人の子孫を捜し出し、財産を没収した。

 ▼近代法の根幹である刑罰対象をあらかじめ定める罪刑法定主義も、法令の効力はその法の施行時以前には遡(さかのぼ)って適用されないとする法の不遡及(そきゅう)の原則も無視したものだった。「韓国にはやっぱり、民主主義は無理なんだよ」。かつてある政府高官が漏らしたセリフである。

 

 


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第2のウォーターゲート事件? 5月12日 [産経抄]

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【産経抄】第2のウォーターゲート事件? 5月12日

 米紙ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者と「ディープスロート」と呼ばれた情報提供者との密会場所は、ビルの地下駐車場だった。盗聴を恐れて電話は利用せず、特別な合図で連絡を取り合った。

 ▼ウッドワード記者は、密会で得た極秘情報をもとに「ウォーターゲート」事件の真相に迫り、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ。「ディープスロート」の正体は、30年後の2005年にようやく明らかになる。当時のFBI副長官、マーク・フェルト氏だった。

 ▼トランプ大統領によるコミーFBI長官の解任は、米政界、メディアに衝撃を与えている。コミー氏にとっても、まったく寝耳に水だったらしい。FBIは、大統領選挙中にロシア政府とトランプ陣営が癒着していたとの疑惑を捜査していた。

 ▼それだけに野党・民主党は、捜査妨害が目的ではないか、と批判を強めている。かつてニクソン大統領は、特別検察官を解任して追及を逃れようとした。「土曜日の夜の虐殺」と呼ばれるこの解任劇を引き合いに出して、「第2のウォーターゲート」と呼ぶ向きもある。

 ▼映画ミステリー小説でもおなじみのFBIは、セオドア・ルーズベルト大統領により1908年に創設された。議会や財界の腐敗をあぶり出すのが目的だった。歴代の長官のなかで、解任されたのは、過去に1人だけである。

 ▼48年間にわたってトップに君臨したエドガー・フーバーのように、大統領に指一本触れさせなかった長官もいた。そんな往年のパワーは失われたとしても、FBIにも「最強の捜査機関」としてのプライドがある。このまま引き下がるとは思えない。メディアの取材合戦も激しくなる。疑惑をめぐるドラマはまだまだ続きそうだ。

 


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5年後には笑顔で退任を 5月11日 [産経抄]

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【産経抄】5年後には笑顔で退任を 5月11日

沿道に手を振り、光化門前を通過する文在寅(ムン・ジェイン)大統領=10日午後、韓国・ソウル(川口良介撮影)

 

 韓国の大統領は大変だ。平成15年6月の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領来日をめぐるニュースに接して、つくづくそう思った。前年にはサッカーのワールドカップ日韓共同開催が実現している。ドラマ冬のソナタ」をきっかけとする、韓流ブームが始まろうとしていた。日本側からは、友好ムードが盛り上がっているように見えた。

 ▼実は、韓国メディアの評判は散々だった。テレビ討論での発言も「屈辱外交」の一つとされた。今後、友好を深める国として、「日本、中国、米国」を挙げると、「米国、中国をさしおいて日本とは何だ」というのである。これに懲りたのか、盧氏の口から出るのは、対日批判ばかりになっていく

 ▼韓国では相変わらず、反日を掲げなければ大統領選はとても戦えない。なかでも筋金入りとされる左派系最大野党、「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏(64)が、新大統領に決まった。盧氏の元側近として、北朝鮮への融和政策も引き継いでいる。

 ▼もっとも、新政権が置かれた環境は、盧武鉉政権が発足した当時とは、大違いの厳しさである。核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮の脅威は、戦争寸前といっても言い過ぎではない。それでも文氏は、金正恩(キム・ジョンウン)・朝鮮労働党委員長との対話にこだわっている。かつて絶好調を誇った経済も、大量の失業者と貧富の格差ばかりが目立つ。期待より不安ばかりが先立つ、新政権の船出である。

 ▼今は拘置所にいる朴槿恵(パク・クネ)前大統領をはじめ、歴代大統領はほぼ例外なく悲劇に見舞われてきた。盧氏に至っては、退任後自殺に追い込まれている。5年後、文氏にはぜひ、笑顔で任期を終えてもらいたい。

 ▼もちろん、朝鮮半島から危機を取り除き、ささやかでも日韓関係を前進させた功績を残した上での話である。

 


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市に虎ありネットにデマあり 5月10日 [産経抄]

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【産経抄】市に虎ありネットにデマあり 5月10日

 「そばを食べるとあたって死ぬ」。1813(文化10)年の4月ごろから、江戸市中にこんな風評が広がった。前年洪水の被害を受けた綿畑で収穫されたそば粉が出回り、それが中毒の原因である。風評には、もっともらしい理由まで付いていた。

 ▼江戸っ子はそばを敬遠するようになり、そば屋の多くが休業を余儀なくされた。奉行所の取り締まりによって、ようやく終息に向かったようだ。経済史家の鈴木浩三さんによると、「江戸時代は、浮説、虚説、噂、取り沙汰、風説などが渦巻く時代だった」(『江戸の風評被害』筑摩選書)。

 ▼今の日本も変わらない。インターネットによって、渦巻きのスピードが格段に速くなっているだけである。ネットでは最近、福島県浪江町で起きた山火事をめぐるデマ情報が拡散している。

 ▼東京電力福島第1原発事故で放出された放射性物質が、火災によって飛散したというのだ。健康不安をあおる、誤った情報も飛び交っている。福島県では、周辺の放射線量に異常がない事実をホームページに発表するなど、対応に追われている。もっとも、救いもあった。ネットには、デマ情報を否定する書き込みも相次いだ放射性物質飛散の可能性に言及した地方紙のコラムは、批判を受けて陳謝した。

 ▼風評被害には、古代中国の人々も悩まされたようだ。「市に虎あり」。『韓非子(かんぴし)』にある言葉は、文芸評論家の故谷沢(たにざわ)永一さんの著作で知った。虎が市場にいるはずがないのに、何人かが言えば信じられてしまうたとえである。

 ▼「同じ虎でも、阪神タイガースの優勝は、何人が言ってもなかなか信用されない」。谷沢さんは嘆いていた。ただ今年はファンにひょっとしてと期待を持たせる、最近の快進撃である。


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異色の大統領夫人の一挙一動 5月9日 [産経抄]

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【産経抄】異色の大統領夫人の一挙一動 5月9日

 フランス皇帝ナポレオン1世が、最初の妻となるジョセフィーヌに出会ったのは、26歳の時である。当時は、軍の司令官として活躍していた。

 ▼2人の子持ちの未亡人で6歳年上のジョセフィーヌは、社交界の花形だった。一目ぼれだったらしい。「あなたの心、唇、瞳にキスを贈ります」。10年前に、ナポレオンがジョセフィーヌに宛てたラブレターが見つかった。競売で約6800万円の値がついていた。

 ▼エマニュエル・マクロン氏(39)が、妻のブリジットさんと出会った時、二人は高校生と国語の教師という間柄だった。ブリジットさんは25歳年上で、3人の子供の母親でもあった。やがて周囲の反対を乗り越えて、29歳で結婚にこぎつける。今は7人の孫にも囲まれている。いかにも、「恋愛大国」のフランスらしいエピソードである。二人の間にも、熱烈なラブレターが何通も行き交ったに違いない。

 ▼前経済相のマクロン氏は、7日に投開票された大統領選の決選投票で、極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏(48)に圧勝した。ナポレオンのおい、ジョセフィーヌの孫に当たるルイ・ナポレオンは1848年に40歳で大統領になっている。それより若い史上最年少の大統領の誕生である。

 ▼EU残留を訴えるマクロン氏の当選で、EUがギロチンに送られる事態は、ひとまず回避されたただ、政治経験に乏しく、議会にほとんど基盤がない新大統領の前途は多難である。経済の立て直しに失敗すれば、再びEU離脱と移民排斥を求める声が大きくなるだろう。

 ▼マクロン夫妻はまもなく、ナポレオンとジョセフィーヌも暮らしたエリゼ宮(大統領府)に入る。異色の大統領夫人の振る舞いも、世界中から注目の的になりそうである。


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憲法前文は日本国は日本人の命を守るつもりはなく、諸外国に委ねる「奴隷国家宣言」だ 5月6日 [産経抄]

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【産経抄】憲法前文は日本国は日本人の命を守るつもりはなく、諸外国に委ねる「奴隷国家宣言」だ 5月6日

 ついに安倍晋三首相が、平成32年を「新しい憲法が施行される年にしたい」と明言し、憲法9条に自衛隊の存在を明記した条文追加による憲法改正を行う考えを表明した。事の成否は最終的に国民の判断次第だが、ともあれ本丸である9条について、具体的な改正方針を提示したことは大きな意義がある。

 ▼国際紛争解決の手段としての武力行使を禁じた9条1項は、世界各国の憲法にあまねく見受けられるいわゆる「平和条項」である。問題なのは「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と定めた2項の方だ。

 ▼素直に読めば、自衛隊の存在は憲法違反だと考える方が自然だろう。憲法学者の約3分の2が、自衛隊は違憲だと判断しているのも不思議ではない。ただ戦力は持たないと書いてあるだけで、それではどうやって国民の生命・財産・自由を守るかについては何ら言及がないのだ。

 ▼この9条2項は、憲法前文の次の言葉と対になっている。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」。日本国は日本人の命を自ら守るつもりはなく、すべて諸外国に委ねるという「奴隷国家宣言」だとも言える。

 ▼あるいは、日本人に戦力を持たせると危険なのでそれは禁止するが、日本人以外の諸国民はみんなまともで信頼できるということか。憲法条文からは、隠しようのない連合国軍総司令部(GHQ)の日本人に対する偏見と蔑視、差別意識が漂う。

 ▼最高法規である憲法が、自衛隊を根無し草状態にしている。憲法と現実の要請との乖離(かいり)を放置したままでは、憲法の空文化はますます進む。まずは、自衛隊をきちんと位置づけることが必要不可欠である。

 


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忍者を見倣おう 5月5日 [産経抄]

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【産経抄】忍者を見倣おう 5月5日

 黒装束を身にまとい、敵の屋敷に忍び込む。万一見つかっても、手裏剣で応戦し、忍術を使って姿を消し去る。忍者は、歴史小説映画アニメなどで活躍してきた。海外でも、「Ninja」は大いにもてはやされている。

 ▼忍者は果たして、実在していたのだろうか。山田雄司(ゆうじ)三重大教授によると、歴史的には「忍び」と呼ばれる。史料の上で存在が確認できるのは南北朝時代からだ。戦国時代の忍びは、各地の大名に召し抱えられて、敵方の情報収集に励んだ。

 ▼本能寺の変の後、徳川家康が、伊賀・甲賀の地を抜けて本拠地の岡崎に逃れる際、地元の忍びが手助けした。これが、伊賀者甲賀者が取り立てられるきっかけとなった(『忍者の歴史』)。もっとも忍者の本格的な研究は、数年前から始まったばかりである。

 ▼その意味で、滋賀県甲賀市に住む渡辺俊経(としのぶ)さん(79)宅で見つかった江戸時代の古文書は、甲賀忍者の実態を伝える貴重な史料といえる。渡辺さんの先祖は、普段は農民だったが、尾張藩に仕える「御忍(おしのび)役人」でもあった。いわば在宅非常勤の忍者である。

 ▼「有事にはすぐ駆けつける」「父子兄弟にも話さない」。藩に提出した誓約書の写しが見つかっている。たいまつのたき方や毒薬の配合などを記した忍術書もあった。甲賀市では、文書に解説を添えて、今月中にも刊行する。先月末には、「忍びの里 伊賀・甲賀」が、文化庁により「日本遺産」に選定されたばかりである。

 ▼日本独自の「クール」な文化として、忍者のブームをさらに大きくするチャンスにしたい。同時に平成の日本人は、忍者の危機管理術を見習うべきである。彼らは長く平和が続いた江戸時代にあっても、有事への備えを片時も怠らなかった。


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オバマ前大統領に失望しているかも 5月4日 [産経抄]

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【産経抄】オバマ前大統領に失望しているかも 5月4日

ダニエル・イノウエ氏(AP=共同)

 

 米海軍の艦船にはしばしば、米国の発展に貢献した人の名前が付けられる。緊迫化する北朝鮮情勢をにらんで日本海に展開する原子力空母カール・ビンソンは、海軍増強に努めた元下院議員にちなんで命名された。横須賀基地には、空母ロナルド・レーガンも配備されている

 ▼現在建造中の新鋭イージス艦の名前も、「ダニエル・イノウエ」に決まっている。2012年に88歳で亡くなったイノウエ氏は戦争中、陸軍に志願して欧州戦線での激戦で右腕を失った。戦後は日系人初の連邦上院議員として長く活躍した。

 ▼太平洋側の日本周辺海域では今月初め、海上自衛隊の護衛艦が米海軍補給艦と合流して、艦載ヘリコプターが針路前方の監視や警戒を行った。初めて実現した米艦防護に、日米同盟の深化の必要性を一貫して訴えてきたイノウエ氏も、天国で大いに満足しているはずだ。

 ▼「イノウエ国際空港」。出身地ハワイ州の空港もまた、先月27日からその名前にちなんで改名されていた。イノウエ氏は、同郷のオバマ前大統領を政治家への道に導いた人物でもある。オバマ氏がイノウエ氏の追悼式で明かしていた。

 ▼1973年の夏、11歳のオバマ少年は家族旅行で初めて米国本土を訪れていた。もっとも印象に残ったのが、モーテルのテレビで見たウォーターゲート事件の議会調査委員会の模様である。イノウエ氏は的確な質問を繰り出し、当時のニクソン政権の不法行為をあぶり出していた。

 ▼イノウエ氏にあこがれ、高邁(こうまい)な理想を掲げてきたオバマ氏が今年9月、ニューヨークのウォール街で行う講演で40万ドル(約4500万円)もの巨額の報酬を得るというイノウエ氏はこちらのニュースには、いささかがっかりしているかもしれない。

 


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受け継がれる国を愛する心 5月2日 [産経抄]

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【産経抄】受け継がれる国を愛する心 5月2日

 戦後50年に当たる平成7年6月、日米激戦の地となった硫黄島で、両国の戦没兵鎮魂のための土俵入りが行われた。曙、貴乃花の両横綱が土俵入りを披露すると、参列した遺族から大きな拍手が起こった。

 ▼「日米両国出身の横綱ができ、巡り合わせというか、戦没者の霊を鎮めたい一心だった」。日本相撲協会の出羽海理事長の熱意が実を結んだ。その4カ月後に開催された欧州巡業のパリ公演も、理事長がいなければどうなっていたことか。

 ▼フランスが核実験を強行した直後である。国内では中止を求める声が一斉に上がったが、「信義を守る」との決意は揺るがない。ただしエリゼ宮に招かれると、シラク大統領に対して核実験の中止を求めた。前夜は悩み抜いた。発言が問題になれば、職を辞す覚悟はできていた。

 ▼横綱佐田の山時代は、2場所連続優勝の直後の場所で、3敗すると引退を発表した。理事長時代は、急進的な改革を進めようとして頓挫する。正しいと信じた道を突き進む。そんな人柄を誰よりもわかりやすく伝えているのが、小紙連載の「舞の海の相撲“俵”論」である。

 ▼「(場所のない)偶数月を大事にしろ」「勝った方は『ありがとうございました』。負けた方は『また鍛えなおしてきます』と両者が感謝の気持ちであいさつする。それこそが大相撲の精神だ」。コラムは、敬愛してやまない師匠の名言集の趣もある

 ▼昨日、訃報が届いた本名、市川晋松(しんまつ)さんは、小紙の取材にこんな言葉も残している。「相撲という国技を通じて、国を愛する心を培ってきた。優勝を決め、賜杯を手にする直前に土俵で歌う君が代。日本人であることを誇りに思う瞬間だ」。舞の海さんは、その心を確かに受け継いでいる。

 


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歴世の「焚書」と変わらぬ愚行…図書館の寄贈書無断廃棄 4月30日 [産経抄]

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【産経抄】歴世の「焚書」と変わらぬ愚行…図書館の寄贈書無断廃棄 4月30日

 本にまつわる記念日が、いくつあるかご存じだろうか。

 ▼小欄は読書週間初日の「文字・活字文化の日」(10月27日)を知るのみだったが、数えると計11日もある。そのうち6日が4月に集中しているのは、新年度の始まりが関係しているのだろう。「よい図書」と語呂合わせした4月10日は「教科書の日」という。新品の教科書を手に、得意満面の小学1年生が目に浮かぶ。

 ▼4月30日は「図書館記念日」とされている。公立図書館の利用を原則無料とする図書館法の公布が、昭和25年のきょうだった。書物の自由な流通が、ときの支配者層にとってどれほど目障りだったかは、あまたの焚書(ふんしょ)を見れば分かる。図書館が「民主主義の礎」と呼ばれるゆえんである。わが国では、北条実時の手になる鎌倉期の私設図書館「金沢文庫」などが名高い。

 ▼蔵書を不特定多数の人に貸し出した点では、天保2(1831)年開設の「青柳館文庫」を公設図書館の嚆矢(こうし)とする説もある。赤貧の幼少期を送った青柳文蔵は商売で財をなし、買い集めた図書約2万巻を郷里仙台藩に寄贈した。「書すなわち吾の賢子孫なり」は文蔵の言葉といい、蔵書には「勿折角(=本を折り曲げるな)」などの注意書きが丁寧に押印してあった。

 ▼折しも仏文学者、桑原武夫氏の遺族が寄贈した蔵書約1万冊を、京都市の図書館が無断で廃棄していたとの記事(大阪版)を読んだ。「知識が増えるほど、われわれの無知も明らかになる」と米大統領、ケネディの言葉にある。本が安く手に入る時代とはいえ“書物の番人”が本の値打ちに無知、いや無神経なことに胸が悪くなる

 ▼歴世の焚書と変わらない、愚行ではないか。「わが子孫」を手にかけられた文蔵は地下から何と嘆くだろう。


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