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口、未だし/嘴(くちばし)黄色いその頃に/巧まず、味なことを言うのではあるまいか… [産経抄]

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【産経抄】6月18日

 言語学者の金田一秀穂さんが、「口」について書いている。「食べることよりも、話すことの象徴器官であるらしい」と(『お食辞解』清流出版)。口が重い。口を挟む。減らず口。言われてみれば口の成句はあらかた「話す」につながっている。

 ▼口に合う、口が肥える-など、「食べる」を表す言い回しは少ない。昨今のニュースに接し、受験生時代の「口寂(くちざみ)しさ」を思い浮かべた人もいよう。駆け込み需要で品薄という。今夏の製造を最後に、東日本での販売が終わる明治のスナック菓子「カール」である。

 ▼近年は、ポテトチップスなどジャガイモ系の菓子に押され、コーン系の「カール」は不振が続いている。製造・販売を西日本に限定すると発表されたのは5月下旬だった。にわかに脚光を浴び、根強いファンの存在を浮かび上がらせているのは皮肉というほかない。

 ▼思い出すのは、CMソングを担った三橋美智也さんの晴朗な声と、季節に応じて変わり続けた歌詞である。合格祈願の縁起物として、包装を「ウカール」にして売り出したこともあった。笑顔の「カールおじさん」も実は激しい生存競争を耐え忍んでいたのだろう。

 ▼舌に耳になじんだ「昭和の味」も、来年7月で生誕50年を迎える。時代の移ろいを思えば潮時なのかもしれない。昨夏のジャガイモ不作は、ポテトチップスの販売中止につながっている。スナック菓子も人と同じく社会情勢や時流に翻弄される生き物には違いない。

 ▼〈口、未だし/嘴(くちばし)黄色いその頃に/巧まず、味なことを言うのではあるまいか…〉(吉野弘『味』)。去りゆく味に送るべき、味な言葉の一つも浮かばず戸惑う人も多いだろう。かの「うすあじ」で口寂しさを紛らわした元子供の感慨はよく分かる。

 


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